ゼロの愛人 第11話


「あのねルルーシュ。怒らないで・・・聞いてくれる、かな?」

先ほどの強さなど欠片もない弱々しい声でスザクは言った。
眉尻を下げ、情けない顔をしているその姿は、まるで悪さをしたことがばれ、飼い主に叱られてビクビクしている犬のようにも見えた。
・・・この表現、あながち間違いではないだろう。
これは、後ろめたいことがあるからこその態度。

「・・・内容によってはな」
「うっ・・・こうして無事に助けたわけだし、どんな内容でも、ね?」

僅かに腕に力を込め、顔を上げることなくいうスザクに、成程、非合法な手でもつかったのかと理解し「解ったよ」と返事をした。まずは情報を手に入れることを優先させよう。その後のことは、またその時考えればいい。
すると、口ごもりながらスザクが答えた。

「えーとね、君、あの万年筆持ち歩いてるでしょ?」
「万年筆・・・ああ、あれか」

俺の瞳の色に良く似た万年筆。
なかなか書き心地が良くて、愛用している品だ。
たしか、以前スザクから貰って・・・。
そこまで考えて俺は眉を寄せた。
スザクから万年筆を貰った?
いつ?
どんなタイミングでだ?
ブラックリベリオンの前には貰っていない。
スザクが学園に来た時には既に持っていた。

いつ、おれは、あれをもらったんだ?

胸ポケットに入れっぱなしになっていたそれを、スザクの指が引きぬいた。
殴られた時の衝撃か、軸が折れ、インクが漏れ出していた。
・・・黒い服と極度の緊張状態で気付かなかったが。

「あのね、この万年筆は皇族や貴族が持ち歩くために作られた物なんだ。誘拐された時にその位置を知るために・・・GPS機能があるんだよ、これ」

万年筆型なら、持ち歩いても怪しまれにくいからって・・・。

「・・・GPS・・・おまえ、俺に発信器を着けていた訳か」

GPSといえば聞こえはいいが、用は行動を監視していたという事だ。
・・・そうだ、思い出した。
この万年筆はまちがいなく、スザクから渡された。
あの時、書くものを探していた俺に「これをお使いください」と差し出したのだ。
綺麗なインペリアルパープルの万年筆はひと目で高級品と分かるもので、使い心地が良く、スザクには返さずにそのまま自分の物に・・・そう、貰ったわけではなく、スザクの物を俺が奪ったんだ。
ジュリアスと呼ばれていた頃に、俺が。
ならば、スザクに監視がついていたのか?
何のために?
ブリタニアを裏切る可能性を考えてか?
いや、スザクへの監視なら、スザクが俺の居場所を知ることは出来なかったはず・・・どういうことだ?と、スザクを見ると、こちらと視線を合わせること無く目を泳がせていた。

「う・・・うん。これはね、僕の携帯で位置情報が受け取れるんだよ」

ポケットから携帯を取り出し開くと、地図は表示されていないが、紫の光と緑の光が同じ場所で交互に点滅していた。恐らく紫は俺、緑はスザクだろう。
受信機をスザクが持っていた。
スザクの監視をスザクが?ありえない。
ならば、最初からこれを俺に持たせるつもりだったのか。

「監視・・・してたのか、お前」
「え?いや、これは違うよ!」

これは?
お前、それは解答として間違えている。
これは違うが、別のもので監視していると肯定したような物だ。
慌てて顔を上げたスザクを睨みつけると。

「あー!ここよ!ここだわ!シャッター壊れてる!!」

壊れたシャッターの向こうから、カレンの大きな声が聞こえてきた。

「もう来たんだ、早いなぁ・・・ルルーシュ、立てる?・・・だいぶ殴られたみたいだね、もしかしてお腹とかも?・・・ああ、酷い痣になってるね」

こちらの了承もとらずに、スザクはシャツをまくりあげると、顔を顰めた。
視線を下ろすと、殴られ、蹴られた跡が青黒い痣になっていた。

「・・・大丈夫だ」

見た目ほど痛みはない。
ショックと興奮で痛覚が一時マヒしているらしい。

「どこがだよ」

我慢しないでよ、と言いながら、スザクは外されていたベルトを手際よく直し、シャツも整えてくれた。

「スザク!ルルーシュは!?」

駆け寄ってきたカレンは、スザクの陰に隠れていたルルーシュを見て、顔を顰めた。

「ちょっと、あんた頬腫れてるわよ、大丈夫!?」
「ああ、スザクが助けてくれたから問題ない」
「お腹も殴られてるから、歩かせない方がいい。病院に連れて行こう」

内臓に問題なければいいけど。

「解ったわ。すぐラクシャータさんの所に行きましょう。スザクが運べば大丈夫よね」

あんたなら、ルルーシュぐらい軽く運べるでしょ?

「・・・って、待てお前たち!!なんで平然としているんだ、この状況に!!」

一瞬思考を停止してしまったルルーシュは、ハッとなり怒鳴った。

「平然?僕が平然としていると思う?一応手加減して2時間ぐらい気絶する程度にしたけど、はらわたが煮えくりかえるほど怒ってるよ」

眉を寄せ、スザクは転がっている扇たちを見ながら、唾棄する様に言った。
そう言う事じゃないと口を開こうとしたが。

「そうよ!あんたの姿が見えなくなって、私たちがどれだけ探したと思ってるのよ・・・って扇さん!?玉城!?南さんまで!?え?どういう事!?」

ルルーシュの安全確認にばかり意識が行っていて、ようやく犯人をみたカレンは、信じられないという声を上げた。 がしゃがしゃと壊れたシャッターが鳴り、見知った顔の団員たちが工場内に足を踏み入れ、床にのされている扇たちを見て絶句した。

「そいつらが犯人だよ。ルルーシュを強姦しようとしてた」
「ご・・・はああああ!?扇さん達が!?」

嘘でしょ!?と、カレンはスザクを見たが、嘘や冗談を言っている顔ではない。虫けらを見るような冷たい視線を、扇たちに向けていた。殺気のこもった声に、思わず背筋が震え、強姦という言葉に、辺りは一気にざわめいた。
のされているのは幹部だ。
その彼らが、食堂の料理長であるクロを誘拐し、ここに連れ込んだ。
カレンがそう口にし、そしてこの状況だ。おそらく真実なのだろうが、相手は上司。どうすべきか迷っている団員の後ろから千葉が姿を現し、倒れている扇たち、そして行方不明になり探していた人物を見て、目を細めた。
報告を聞き、汚物を見るような視線を玉城に向けた後、戸惑っている団員に扇たちを縛り上げるよう命令した。
気絶し身動き一つしない玉城に視線を向け、スザクは深々と息をついた後、あからさまに疑いの眼差しを向けるカレンの目を見た。

「じゃなきゃ、僕もここまでやらないよ」
「・・・信じられないわ」

だって、あの扇なのだ。
どうしてテロリストなんてしているのか不思議なぐらい、人畜無害で気が弱く、人がいい扇なのだ。玉城だって問題行動は起こすが、こんなことするとは思えない。
それに、南はロリコンだし、どう考えてもルルーシュは対象外のはずだ。

「じゃあ、はいこれ」

スザクは足元に置かれていたカメラをカレンに渡した。

「なによこれ?カメラ?」
「ルルーシュ押さえている一人がまわしてたから、殴る時に奪っておいたんだけど、僕、使い方解らないんだよね」

だからまだ回ったままだよ。
カレンはカメラを覗きこむと、停止し、最初から再生した。
すると、先ほど繰り広げられた会話が再生された。
最初の方は捕まえられたルルーシュの映像があったが、その後団員がルルーシュを抑えるためにカメラから手を離したことで、映像は地面を映したものだけとなり、音声だけが流れてきた。

考え直せと口にするルルーシュ。
その言葉を否定し行われる暴力。
そのすべてがそこに記録されていた。
やがて玉城の言葉でカメラを持っていた者が再びルルーシュを映すと、四肢を抑えられたルルーシュのベルトに玉城が手をかけるシーンが映し出される。

スザクは先ほどのように冷たい表情になり、カレンの顔が赤くなりみるみると般若のような怒りを乗せた。
大音量で再生されている為、周りにいる団員の耳にも届き、今までは何かの間違いでは?と疑い丁寧に扱っていたのだが、皆その顔に怒りを乗せ、扇立ちを乱暴にその場から運び出した。
スザクが救出に訪れるまでの一部始終を目にしたカレンの顔は、スザクとルルーシュでさえ血の気が引くほど恐ろしかったという。

「最っ低!」

カレンの声は、広い倉庫の中を響き渡った。


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万年筆は亡国で投獄された時に没収→回収したか、新しいのを手に入れて渡したということに・・・。

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